風景画 4

2023-10-31T23:10:27+09:00

Posted by katzghesseaux

0

小説

を…っていつも小説ばかりですが披露してをります
興味無い方は速攻閉じませう(笑)
今回は、昔の作品です


風景画

小林幸生 1996

前回のあらすじ
高校生のときに自分のカレシと姉が海で心中し、助けようとして失明した寺野覚子(さとこ)は引っ越して、母・待子(まちこ)の薦めで小説家になり、彼の苗字と姉の名前のペンネームで連載などしている 母がアシスタントだが、友達の宵(よい)と結託して、 安藤樹(いつき)に継がせようとしている 買い物に出て偶然会った高校の同級生・森本大洋が、安藤の兄であることが判る 両親の離婚で苗字が違っていたのだ 3人とも、宵に小さい頃に遊んでもらっていたのだった 大洋は幼い頃過ごした街に帰ってきて喫茶店を経営している
安藤は本業の画家の傍ら、アシスタントの仕事をうまくこなしていた 母に見合いではないと言って油断させて数ヶ月、ふたりで出掛けたらと言われ驚愕する 安藤はチケットは取ってあるので、行く気になったら一緒に行きましょうというかんじだった 覚子は、返事は保留して、用意されたお茶をグラスに淹れるだけの簡単な特訓なども始めていく




そのあとも仕事をしていきながら、複雑な気持ちを抱いていたが、書くものに音楽家の話が思い浮かび、
「安藤さん、音楽会一緒に行ってくださいませんか? 取材で!」とその日会うなり言ってしまった「次の話は音楽家を主人公にしようと思って」
「ええ、もちろんです」安藤さんは穏やかに言った
「その日、壁が何色かとか聞くので、質問と答えをメモしていただけますか」
「わかりました」母の声は聞こえなかったが、呆れた顔をしているんだろうなあ、と思う

秋になり、あっと言う間にその日になってしまった
「演奏会に行けそうな格好にしておいたわよ」母は、文句を言われては困るからか、パンツスーツのようなものを用意していた
「ありがとう」
「今日はグリーンさんですね」迎えに来た安藤さんが言う
「え?」
「緑ベースの服です この前は、ブラウンさんでした」
「なるほど ホワイトさんとかも使えそうですね ブルーさんは居ないのか…」
「確かに…ブルーやレッドだと、戦隊モノっぽくなってしまいますね」道中そんな話が淡々と続く
取材と鑑賞は滞りなく終わり、無事トイレも済んでホールの外に出る
「お食事に行きましょう、おかあさんがお寿司なら食べやすいし、お好きだとおっしゃったので、友人のお店に確認し、ひとつずつのトイレもあるというので、予約しました」
「へえ、ご友人が」
お店に着くと、気安く挨拶している カウンターに座らせてもらった 安藤さんはお友だちとも会話し、適度にほっといてもらえたり、話に混ぜてくれたりした
トイレにもエスコートしてもらって、出るとすぐ足音が聞こえてまたエスコートしてくれるので
「なんだか慣れてますね、他にもお世話してるんですか、その、どこか不自由な方の…」
「いえ特には…母がおっちょこちょいでよく転ぶんで、トイレから出て来るときとか、なにげなく見てるのとかかな…あー、すみません、そんなのと一緒にして」
「いえいえ、それは大事ですよ」安藤さんはわりと話し方がのんびりしていて、兄である森本とは大違いだ
高校生のときは森本とよく口論になったものだが、この人とは喧嘩になりそうにない「森本やおかあさんと、安藤さんは似てるんですか?」
「僕は母似で…あっ、僕はそんなしょっちゅう転んだりしないですよ。顔とかは似てます。大洋は父似なので、ぼくらは言わなければ兄弟と思われなかったですね」
森本の顔は覚えているが、似ていないのか
話題になったから聞いただけで、おかあさんは知らない
そのとき、安藤さんの顔を初めて想像しようとしたことに気付いた 今まで、どう考えていたのだっけ…と自分で呆れる
失明してから引きこもっているので、それから知り合った人は少ない。編集の矢倉さんについては、母が銀縁眼鏡と紺スーツの、いかにも編集ってかんじのボブカットの美人と言ったので、マンガのように眼鏡でこちらから見えない目を想像して目自体は思い描いていないが、それで勝手に想像している 文房具屋さんも、昔行った文房具も売っている本屋さんにいた店員さんで勝手に想像、森本も昔の顔で思い描いていて…母が何も言っていないので、安藤さんのみ全く容姿の情報が無いのだ
まあいいか、と呟いて、お茶を啜る
家まで送っていただき、取材は終了した
「今度、大洋のお店に行きましょうね」と言われ
「そうですね」と言ってしまう
…これは約束なのだろうか?

夜、宵ちゃんに電話をした
短縮ダイヤルの場所を作ってもらってあるので、ひとりでもかけられるのだ
「ていうことがあったんだけど、宵ちゃんも共犯なの?」
『えっ、初めて聞いたけど』疑り深いなーと笑いながら続ける『それで、あなたはたのしかったの?』
「まあ、ふつうに…でもほんと、取材と功労会みたいなものよ」と答えると、頗るウケている 宵ちゃんは笑いの沸点が低い「でね、コンサートホールに行ったら、宵ちゃんの舞台も観たくなったの」
『あら』宵ちゃんは役者さんである 失明する前は何度も観ていたが、やはり眼が見えなくなったらお芝居は観る気になれず、長いこと観ていなかった「見えないのは判ってるけど、あの空気を感じたくなって」
『樹くんと?』
「いや、それはおかあさんとよ」そんな間髪入れず誘ったら、調子に乗ってると思われるよ。行くとしたって、もっと後だ「おかあさんに代わるから、都合聞いてチケット手配してくれない?」
『了解』母を呼んで電話を代わった 4日後から始まる舞台の中日を予約してくれて、行く
勿論見えないから、母に始まる前にパンフレットの説明をしてもらい、ラジオドラマを聴く体で、その空間にいた 周囲の人は白い杖のわたしを、なんでここに居るのだろうとか思っているに違いない 宵ちゃんが出てきたとき、母は小声で教えてくれた 普段とは違う出し方なものの、声は宵ちゃんのものだった ライトを浴びた宵ちゃんを想像しながら、目を閉じて聞いた
出待ちの宵ちゃんにはさらりと挨拶して、退散
「あとで感想メールするね」と母
「ありがと、覚子ちゃんも気をつけて」わたしは声のするほうに手を振る
「ねえ、大洋くんのお店に寄って行こうよ」母はわたしの腕に絡まってきて言う
「えっ? あーうん…」先におかあさんとになっちゃうけど、まあそれはいいよね…などと考えつつ連れられていく
再会した時に鳴ったドアベルの音が鳴り、お店に入ったとわかった
「いらっ…おお、ざう、おかあさん!」
「いま、宵ちゃんの舞台を観て来たんだ」母は友達に話すみたいに喋り出した
「へえ、おれも観たいな。こどもの頃観たきりだなあ …あ、ちょっと失礼」呼ばれたのか、森本の声は聞こえなくなる
「日曜日の午後だからか、忙しそうだわ」
「繁盛してるんだ」そう言えば店内は騒がしい
「前にブレンド飲んだけどおいしかったよ でも今日はグァテマラにしてみようかな あなたアメリカン? モカやキリマンもあるよ ケーキとかサンドイッチとかは?」
「食べ物はいいかな、最初だからブレンドで」そして戻ってきた森本が注文を取ったり持ってきたりしてくれたが、母の声が隣からするのでカウンターっぽいがそれ以外は森本に話しかけられたりせず、ほんとに忙がしいのだなあと思う
「じゃあまた来るね、ご馳走さま」母は森本に声をかけ、返事は聞こえたがレジはバイトさんなのか別の声だった
「やるなあ、あいつ」ちょっと見直した

「すみません、ちょっと地方出展するので、来月2週間ほど空けたいのですが…」安藤さんは安藤さんでご活躍だ
「じゃあ、貯まるとあとが苦だから、その間のアシスタントはわたしがやっておくわね」母が言って、初のお休み申請を快く受け入れた「個展なの?」
「ええ、一応…地方のコンサートホールの一角がそういうスペースになっていて」
どんな絵を描くのか興味無くはない だが演奏やお芝居をCDやラジオドラマのように扱って雰囲気だけ味わうようにはいかないんだろうなあ…
そしてその日が来たときに、母が
「樹くん遅いわね…あ、今日と次回は休みだった」と言った
「先週、大袈裟にいってらっしゃいを言っておいて、忘れてたの?」とツッコむが、実はわたしもそう思っていた
安藤さんは、ごく自然にこの場に溶け込んでいるのだった


つづく


次回、最終回! おたのしみに!>アニメか!
前の記事 次の記事